“ We should make it visible ”

  • スズメバチの巣
  • 浪江町昼曽根(2018年12月) / 1200 cpm
  • 茨城キリスト教大学の昆虫学者 桑原先生と浪江町昼曽根を調査していると114号線の高架下にきれいな球形をした直径40cmほどのスズメバチの巣を発見した。スズメバチの巣の3次元放射線像を制作するために、以前からきれいな形をした巣を探していたのだ。桑原先生からこのスズメバチの巣をお借りして、3次元放射線像を制作したのがこの像である。 放射線像を見ると、スズメバチの巣の縞模様が浮かび上がっている。これは、スズメバチの巣は森林の樹皮を材料にして働き蜂が唾液と混ぜて幾重にも塗り付けることで作られるので、木の一本一本に汚染の濃淡がそのまま反映された結果である。放射線量も1000cpm以上で高い値を示している。 スズメバチの巣は、民家の軒先や物置に作られる。人間の生活圏の非常に近いところに毎年春から夏の短い間に突如として現れるのである。これは生物の生態活動による汚染拡散であり、除染した後の土地や家屋の再汚染の一例である。森林が除染されない限り、この拡散は継続する。 われわれはこれまでネズミの糞による室内の汚染や、イノシシやサルの糞によって汚染が大きく移動することを示してきた。今回、生物の生態活動による汚染拡散をもう一例新たに加えることができ、福島第一原発周辺の自治体の方々にも参考にしていただければと思う。 この3次元放射線像を制作するに当たり、スズメバチの巣の外被を27区画に分割し切り出し、7枚のイメージングプレートを使って撮像を繰り返した。

1日に1回、この放射線像は切り替わります。1/3

栄誉賞
アルス・エレクトロニカ 2017

富士フィルムアワード
京都国際写真祭 2017

審査員特別賞
中国連州国際写真祭 2017

App iconハイブリッド出版

  • 厳選された51点の放射線像を収録。本+アーカイブサイトのセット購入をお薦めしています。もちろん本のみの購入も可能です。

  • アーカイブサイト

    170以上のすべての放射線像を収録。 サンプルのカラー写真と対比、3次元放射線像の操作と全視野からの観察などすべての機能が備わっています。

放射線像プロジェクトについて

 東京電力福島第一原子力発電所事故では避難指示を受けた方が8万人、実際に避難された方は福島県内だけで15万人に上りました。原発のあった双葉町・大熊町では依然として町内の大部分で立ち入りが禁止され、避難区域が解除され始めた富岡町・浪江町でも帰還する住民は10%未満に留まっています。また傷んだ家屋は徐々に解体が進められ、かつてあった町の風景は失われつつあります。この原子力災害の影響は、住民の移住に伴う周辺自治体の文化・コミュニティーの喪失、福島県および関東・東北地方における農海産物の売上不振、増え続ける汚染水と除染で発生した大量の汚染土問題と多岐に渡り、人生設計が崩された元住民を今も苦しめ続けています。すでに起こってしまったこの大規模な放射能汚染と起こりうる次回の原発事故に対し、今できるすべてのことをやっておかなければならない ― 。私たちはその思いを胸に、そして放射能汚染は目に見えないという定説を覆すために、事故後10年に渡ってその映像記録を残してきました。  放射能汚染を可視化するのはなぜか。それは、この手法が放射能汚染の分布とその形態を把握する唯一の方法だからです。これにより、外部被曝と内部被曝の違い、生態系に取り込まれた放射能の動き、初期のフォールアウトがいかなるものであったのか見えてきます。私たちが用いてきたオートラジオグラフィーという手法は、本来植物の葉など平面なサンプルに限って撮像することが一般的でした。しかし、私たちは魚類や爬虫類なども可能な限り平面に乾燥させることで撮像するとともに、2016年末には急速に発展してきた3D技術を取り込むことで、それまで不可能と思われていた立体物における放射能汚染の可視化に成功しました。  われわれ人類は自ら作り上げた原子力発電所の事故とそれに伴う放射能汚染によって、また新たに国土を失うのか、あるいは東京電力福島第一原発事故が最後の原子力災害になったと言える日が来るのか、現時点では分かりません。しかしながら、私たちはこれまでもあらゆる公害を乗り越えてきたこと、そして世界の金融・投資市場において再生可能エネルギーにシフトする企業に投資が集まるような潮流が生まれていることを考えれば、近い将来、原子力災害の危険性や核廃棄物の問題が解決に向かうはずです。その危険性を再認識するために、また2011年に発生した原子力災害の記憶が完全に風化されないように、ここに記録した映像記録を世代を超えて何度でも思い返していただければ幸いです。 東京大学名誉教授 森敏 映像作家 加賀谷 雅道

2011年、私はどうにかして放射能汚染を視覚的な記録として残せないものかと試行錯誤を繰り返していました。これまで「黒い雨」「死の灰」といった言葉や、「ベクレル」「シーベルト」といった数値で表現されていた放射能を視覚的な映像として記録に残すこと、それは日本にいる誰かが今やらなければならないことであり、それは不可能なことではないだろうと確信を抱いていたのです。

加賀谷 雅道

映像作家

起こりうる次回の原発事故に備えるには、何がどれくらいどのように汚染をするのかをビジュアルな映像として世界の人々は頭の中に収蔵しておく必要がある。この放射線像を、日本ばかりでなく、世界の原発周辺の保育園、幼稚園、小学校、中学校、高等学校、果ては大学までも、教養教育の教材に使って頂ければ望外の喜びです。

森敏

植物栄養学/東京大学名誉教授